「この医院は、AIに一度も引用されていません」。あやうく、そう書いた報告書を渡すところだった。
根拠は「引用元 0件」という数字。自分たちで作った観測ツールが、そう返してきた。AIに「仙台で土曜にやっている歯医者は?」と尋ね、その回答が何を参照したかを拾う道具だ。出てきたのが、ゼロ。
でも、引っかかった。AIはちゃんと答えている。何軒も名前を挙げて、すすめている。なのに参照元がゼロというのは、筋が通らない。
幸い、AIから返ってきた生の応答をまるごと保存してあった。開いてみる。引用元は、あった。10件。EPARK、口コミサイト、「おすすめ8医院」式の比較記事が、ずらりと並んでいた。
道具が見落としていた。AIの要約回答は、参照元を一段深いところに、入れ子でしまっている。私たちのプログラムは、その一つ上の棚だけを見て「空です」と報告していた。引き出しの中は、詰まっていたのに。
0件と10件のあいだには、天と地ほどの開きがある。あのまま渡していたら、「あなたはAIにまるで相手にされていない」という、事実でない話を、グラフまで添えて、もっともらしく客に届けていた。
これがいちばん怖い。間違った数字は、空欄よりたちが悪い。空欄を見た人は「わからないんだな」と思う。数字を見た人は、信じる。
自分の店がAIにどう出ているか。これを測るのは、検索順位を調べるのとは別物だ。
まず、答えが毎回ゆれる。同じ問いでも、AIは昨日と今日で違う店を挙げる。一度測って「出た」「出ない」と決めるのは、サイコロを一回ふって確率を語るのに近い。だから同じ問いを何度も投げて、出てきた回数で見るしかない。
次に、検索で1位でも、AIの答えには使われない。Ahrefsが86万キーワードを調べたところ、AIの要約が引く情報源のうち、検索1ページ目に入っていたのは4割を切っていた。この半年ほどで、76%から38%へ落ちている。「Googleで上だからAIにも出ている」は、もう通らない。
そして、測る道具そのものが、しれっと間違える。さっきのゼロのように。
だから、自分たちのしくじりは隠さないと決めた。バグを見つけ、直し、生の応答を証拠として残して、「これが根拠です」といつでも開けるようにした。測る数字が信用できないなら、きれいなグラフに意味はない。
もし誰かに「あなたの店、AIにはこう出ていますよ」と数字を見せられたら。グラフの出来より先に、ひとつだけ聞いてみてほしい。「それ、どうやって測りましたか。生の回答、見せてもらえますか」と。そこで言葉に詰まる相手なら、その数字は、まだ信じなくていい。
凪WORKS/AI来客観測。AIが地域の事業者をどう案内しているかを、生の回答を残しながら観測しています。本文中の数値は記載時点のもので、特定の表示順位・推薦・来客数の増加を約束するものではありません。